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ベジタリアンの落とし穴

■2017/08/18 ベジタリアンの落とし穴
ネット配信毎日新聞医療プレミアより。

メリット、デメリットを良く理解したうえでやりましょう。

『病気で発覚 菜食主義の落とし穴
成田崇信 / 管理栄養士

 みなさんは、菜食主義(ベジタリアン)についてどんなイメージを持っていますか。肉など動物性食品を食べない、減量(ダイエット)に良い、芸能人がやっていそう、おしゃれ、健康食、動物愛護、宗教--など、いろいろと思い浮かぶのではないでしょうか。

 なんとなく健康に良さそうなイメージのある菜食主義ですが、欧米に比べ日本ではまだまだ認知度は低く、そのためか、菜食主義にも種類のあることや、栄養面において意外な落とし穴があることも知られていないように思います。今回は栄養学からみた菜食主義について、話をしてみたいと思います。

菜食主義の分類

 菜食主義というと植物性食品しか食べないようなイメージがありますが、一部の動物性食品は許容される菜食主義から、動物性食品を全く口にしない「ビーガン」までいくつかに分類され、健康や栄養面で必要とされる配慮が異なります。

 菜食主義は、許容される食品によって、その呼び方も違います。「セミ・ベジタリアン」は本来のベジタリアンではなく、魚や鶏肉などの動物性食品は禁じられておらず、特定の栄養素が不足する心配はあまりありません。次に「ラクト・オボ・ベジタリアン」ですが、動物性食品は乳製品と卵のみ許容されています。乳製品や卵は栄養価の高い食品なのですが、鉄分をあまり含んでいないため、特に思春期の女性では鉄分の不足が心配されます。乳製品のみ許される「ラクト・ベジタリアン」もラクト・オボ・ベジタリアンとほぼ同じ栄養リスクがありますが、牛乳には鉄分がほとんど含まれていないため、鉄欠乏の危険性はかなり高くなります。

 そして、全ての動物性食品を取らないビーガンですが、鉄やビタミンD、カルシウム、亜鉛などのビタミン、ミネラルや必須脂肪酸、たんぱく質など成長期に健康的な体を作るために欠かせない大事な栄養素が不足しやすいことが知られています。また、その中には、ビタミンB12のように、植物性食品では充足できない特殊なビタミンがあるため注意が必要です。

菜食のメリットは?

 肥満や高コレステロールによる循環器疾患が社会問題となっている米国では、菜食主義は、糖尿病や高血圧、心疾患の予防に効果がありそうな健康的な食事の一つとして認知されています。確かに生活習慣病に悩む人には、とてもメリットのある食事法だといえるでしょう。また植物性の食品は食物繊維を豊富に含むため、腸内の善玉菌が活発になったり、腸の動きを高めて排便しやすくしたりするため、便秘がちな人や、便や腸内ガスの不快な臭いが気になる人は、改善が期待できます。

 減量(ダイエット)効果ですが、菜食は消化吸収に負担がかかることや、水分を吸収してかさが増えやすいため、ある程度の満腹感を持たせながらエネルギー摂取量を減らすことが期待できます。

 インターネットの健康サイトなどでは、イライラする気持ちを落ち着かせる効果があるなど心理的な作用についてのメリットが書かれているものも見かけますが、それらの効果は実証されているものではありません。また、一部では「肉を食べると興奮したり、心が荒れたりする」といった説もあるようですが、これについても、栄養学的な根拠は全くありません。

安全に行うためにデメリットを理解する

 菜食主義の分類でも言及しておりますが、菜食主義のメリットを生かすためにも、栄養学的な特徴と欠点を十分理解することが、必要です。

 菜食では動物性食品の代わりに穀類や豆類をとることで、エネルギーやたんぱく質を確保しますが、穀類には、鉄やカルシウムといったミネラルの吸収を阻害する物質を含んでいることがあり、ミネラルの吸収率が低くなる傾向があります。また、必須脂肪酸であるn-3系脂肪酸は魚が主な供給減なのですが、植物性食品ではエゴマ油やクルミなど限られたものにしか含まれていないため、意識して取るようにしないと不足するおそれがあります。

 ビーガンの特徴でも述べましたが、菜食では成長期に大切な栄養素が不足しやすく、将来の骨粗しょう症の原因になったり、無排卵月経のリスクも高めたりするおそれがあるため、思春期の女性が減量目的に行うのは勧められません。

深刻なビタミンB12欠乏

 ビーガンと呼ばれる完全菜食を実施する上で、最も気をつけたい栄養素がビタミンB12です。ビタミンB12は動物性食品に広く含まれており、体内にも数年から十数年分も備蓄が可能なため、定期的に動物性食品を摂取している人についてはほとんど不足することがありません。そのため、完全菜食をはじめてもすぐには身体に悪影響は表れないのですが、突然の原因不明の体調不良などでビタミンB12の欠乏が発覚することがあります。ビタミンB12はDNA合成や脂肪酸合成に関わる重要な栄養素で、欠乏すると巨赤芽球性貧血や末梢(まっしょう)神経障害などを発症するリスクが高まります。

 菜食主義人口の多い米国では、菜食主義の人が栄養バランスのとれた食生活ができるよう、ベジタリアンを対象とした健康的な食事摂取パターンというものが公表され、必要なエネルギー摂取量別の、食品摂取量の目安が示されており、乳製品や卵についても目安量が設定されています(注1)。また、完全菜食の人では、植物性食品に含まれていないビタミンB12を確保するためサプリメントやビタミンB12強化食品の使用も一般に推奨されています。

 日本でも厳格な玄米菜食など、ビーガン同様の完全な菜食を実施している人がいらっしゃるのですが、ビタミンB12不足に対する注意喚起が不十分な印象があります。玄米菜食の本など菜食をすすめる一般書を何冊か読んでみたのですが、ビタミンB12への注意喚起の無いものや、植物性食品でもビタミンB12をはじめ、全ての栄養素を確保できるという記述がみられました。

 以前は、海藻、大豆の発酵食品であるテンペ、みそなど一部の食品にはビタミンB12が含まれていると考えられ、サプリメントを嫌う菜食主義の人の間で用いられていました。ただ、実際にビタミンB12が含まれているとはいえ、これらの食品の摂取だけでは、安定したビタミンB12補給という点で不十分ではないでしょうか。

 米国のニューイングランドで、海藻などをよく食べる菜食グループを対象に行った調査では、グループに属する大人や子供が、動物性食品を摂取する人たちに比べて、血液中のビタミンB12が低い値だった、という結果が出ています。また、ビタミンB12が含まれているからといって、貯蔵・保存した後に摂取した場合、ビタミンB12が変化せず、十分に吸収できるかどうかについては不明な点が多く、必須栄養素を得る手段として限られた食品を食べて補うという方法はリスクが伴うと考えます(注2、3)。

 このような点からも、完全菜食を健康的に行うためには、菜食主義者向けの食品にビタミンB12を添加した食品やサプリメントの摂取がのぞましいでしょう。

少量の動物性食品取って

 栄養学の視点で考えると、菜食によって得られるメリットは、少しの肉や乳製品を食べたからといって、無くなってしまうようなものではありません。それよりも、動物性食品が身体に良くないと思ってしまい、必要以上に避けてしまうのも肉の食べ過ぎとは別の健康上の問題を引き起こしかねません。

 野菜中心の食事をする場合でも、肉など動物性食品を食べてはいけないような特別な理由がないかぎり、ビタミンB12のような植物性食品では補えない栄養素が不足しないよう、少量の動物性食品を取るようにしてほしいと思います。

 また、成長期の子どもに必要な栄養が不足しやすいため、菜食主義の家庭でも、子どもには別メニューを用意してください。

 ありきたりな結論になりますが、好きなものを我慢せず、まんべんなくいろいろな食品を楽しく食べることが健康な食生活の第一歩です。

   ×   ×   ×

注1: Appendix5. USDA Food Patterns: Healthy Vegetarian Eating Pattern 2015-2020 Dietary Guidlines

注2:Yamada K, Yamada Y, Fukuda M, Yamada S.Bioavailability of dried asakusanori (porphyra tenera) as a source of Cobalamin (Vitamin B12).Int J Vitam Nutr Res. 1999 Nov;69(6):412-8.

注3:Miller DR, Specker BL, Ho ML, Norman EJ.Vitamin B-12 status in a macrobiotic community.Am J Clin Nutr. 1991 Feb;53(2):524-9. 』

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